【Pre】科学的に証明された"運を引き寄せる法則"

「あの人はいつも運がいい」「いつもツキがなく、うまくいかない」。どちらもよく聞く話ですが、世の中のありとあらゆる「成功ルール」を検証した全米ベストセラー『残酷すぎる成功法則』(飛鳥新社)によれば、科学的に証明された「幸運を引き寄せる方法」は存在します。その方法とは――。
※本稿は、エリック・バーカー・著、橘玲・監訳『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

「いつも運がいい人」を真似してみると
「成功したのはただの運」というもの言いを、よく耳にする。ところが、いい話がある。「運を引き寄せる」科学があるのだ。

エリック・バーカー(著)、橘玲(監修、翻訳)、竹中てる実(翻訳)『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』(飛鳥新社
ハートフォードシャー大学の心理学教授のリチャード・ワイズマンは「運のいい人」と「運の悪い人」を対象に調査を行い、両者の人生に異なる成果をもたらすのはまったくの偶然か、不気味な力か、それとも何か本質的な違いなのかを検証した。その結果、運は単なる偶然でも超常現象でもなく、その人の選択によるところが大きいことが明らかになった。

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1000人以上の被験者を調査したところ、ワイズマンは、運のいい人の性質を発見した。彼らは、新しい経験を積極的に受けいれ、外向的で、あまり神経質でないことが示されたのだ。つまり彼らは直感に従い、何より前向きにものごとを試し、それがさらに直感を研ぎ澄ます。家に閉じこもっていたら、新しいことやワクワクさせてくれること、素敵なものにどれほどめぐり合えるだろうか? きっとチャンスは少ないだろう。

運は、生まれつきのものだろうか? そんなことはない。運の大部分は選択によってもたらされることを踏まえたうえで、ワイズマンは「ラック・スクール」という別の実験を試みた。運が悪い人を、運がいい人のように行動するように指導したら、幸運な人と同じ成果を得られるだろうかというものだ。

結果は上々だった。ラック・スクールの卒業生の80%が、運が良くなったと実感した。しかも彼らは運が良くなっただけでなく、幸福感も強くなったという。

「チャレンジしなかった」という後悔は大きい
機会を最大限に生かす行動をしなければ、運のいい人にも悪いことが起こるのだろうか? 実はそうだ。「人は、やらなかったことを最も後悔する」ということわざは真実である。

コーネル大学の心理学教授、ティモシー・ギロヴィッチによれば、人びとは、失敗したことより行動を起こさなかったことを二倍後悔するという。なぜだろう? 私たちは失敗を正当化するが、何も試みなかったことについては、正当化できないからだ。さらに、歳を重ねていくにつれ、人は良いことだけ覚えていて、悪いことは忘れてしまう傾向にある。そんなわけで、単純に多くのことを経験すればするほど、年老いたときに幸福感が増し、孫に聞かせる武勇伝も増えるというわけだ。

一番成績が良かったのは誰だろう? なんと、幼稚園に通う6歳児だった(一番成績が振るわなかったのはMBAコースの学生たちだった)。園児たちは計画性に優れていたのだろうか? いや、違う。彼らはスパゲティの特性やマシュマロの硬さについて特別な知識を持っていたのだろうか? それも違う。

では、園児たちが成功した秘訣(ひけつ)は何だったのか? ただがむしゃらに飛びついたのだ。ワイズマンの言う「運がいい人」のように、たくさんのことを次々と試した。彼らは何度試してもたちまち失敗したが、そのたびに、めきめきコツを習得していった。

つまり、見本をつくっては試す、つくっては試す、つくっては試す……と、時間切れになるまでひたすらこれをくり返すのが、園児たちのシステムだった。定められた道筋がない場合には、このシステムが勝利をおさめる。

シリコンバレーでも昔から「早く失敗して、損害を小さくしよう」と言われてきた。小さな実験をたくさん試して一番良いものを見きわめるというこのやり方が、身長120センチ以上の人々、つまり私たち大人にも有効なことは、研究によって証明されている。

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「無敗のバットマン」モデルの難点
このやり方を早速取りいれるのはどうだろう? とても簡単だ。私たちはともすれば失敗を恐れすぎる。しかし失敗を避けようとすることに、それほど意味があるだろうか?

この質問に答えるために、ほかにも幼稚園生が日ごろ考えていることを調べてみる必要がある。

例えば彼らは、バットマンになりたいと考えている。バットマンになるのはもちろん簡単ではない。まず、武術の過酷な訓練を受けなければならない。しかし、成功との関連でもっとはるかに面白い質問はこれだ。

「どうすればバットマンであり続けられるのか」

実はこれが、なぜ私たちは失敗をとても恐れるのかという疑問に答えてくれる。

バットマンは、最も頻繁に引き合いにだされるスーパーヒーローの一人だ。バットマンは超能力を持たないふつうの人間だ。億万長者で、目新しい道具のコレクションを持っていることはたしかに強みだが、それがバットマンであり続ける、すなわち「1度として負けられない」という最大の難問の解決になるわけではない。

プロボクサーで30勝1敗といえば凄い記録だが、バットマンのように相手が闇の戦士の場合には、その1敗が死を意味する。ゴッサムシティの悪党たちは、レフェリーが止めに入ることなど許さない。だから、バットマンであり続けるには、ただの1度も負けられない。失敗は許されないのだ。

どんなに頑張っても無敗でいられるのは3年
そこで、もしバットマンのように出来る限り万全に体を鍛えあげたとして、あなたはどのくらいの期間、連勝記録を維持できるだろうか? ありがたいことに、またも調査結果を活用できる(ああ、科学に感謝)。ヴィクトリア大学のE・ポール・ゼーアは、大まかな目安を得るために、トップクラスのボクサー、総合格闘技のファイター、プロフットボールランニングバックの選手など、バットマン級のアスリートを対象に調査を行った。あなたはどのくらいの期間、無敗のバットマンでいられますか?

答えは3年だった。そう、それだけ。

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ゴッサムシティの犯罪のほとんどが信号無視くらいで、邪悪な黒幕はめったにいないことを願おう。10年以上武術を極めたところで、この地域の悪を一掃する時間はあまり確保できそうにないからだ。

幸い、あなたは無敗のバットマンになろうとしているわけではない。だが、あたかもそうであるかのように行動する人びとが少なくない。私たちは常に、落ち度があってはならない、一度失敗したら終わりだ、と思っている。

しかし私たちはバットマンではない。何度でも失敗し、断念し、学ぶことができる。というより、それが学ぶための唯一の方法なのだ。