ロジカルシンキング

頭のいい人が使う「問題解決ツール20」
2018年12月10日 08:00PRESIDENT Online
いい企画が出てこない。話せども話せども、進まない会議。ようやく目標を立てても、実行にまで至らない……。こんなお悩みを一挙解決します。
活発に議論しても、会議が進まない理由
服の新商品開発会議で、次のような議論が交わされているとします。

「今年は、赤が絶対に流行るはず!」
「この夏は酷暑の予報だから、涼しい素材でつくるべき。それが顧客のため!」
「ゆったりした大きなサイズの服も手がけていきたい」

一見、熱い思いをぶつけ合って活発な議論が行われているように見えますが、これは典型的なダメ会議です。それぞれが勝手気ままに言いたいことを言っているだけなので、議論はかみ合わず、会議は混乱のまま終了するでしょう。

物事を整理して考えたり、考えたことを周囲の人にわかりやすく伝えて共有するにはどうすればいいのか。ぜひ活用したいのが、フレームワークです。フレームワークは、物事を考えるときの枠組みのこと。あらかじめ枠組みを決めてから思考や議論を始めれば、「大事なことを検討するのを忘れていた」「お互いに別の方向を向いて議論していた」といった事態を防ぐことができるのです。

フレームワークは多種多様ですが、ビジネスの現場でよく使われるものは限られています。なかでも有意義なものを20個紹介しましょう。


ロジカルシンキング初級
何について議論すればいいのか
その議論に、見落としはないか
まずはロジカルシンキングに便利なフレームワークから。すべてのフレームワークの基本にある考え方が「MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)」(図1)です。日本語では「モレなくダブりなく」。物事を要素分解するとき、すべて網羅したうえで、抜けや重複をなくそうという考え方です。たとえば、服の商品企画をするときに必要な情報は、「マーケット情報」と「デザイン情報」に分けられます。デザイン情報は「色」や「素材」だけではなく、「柄」や「スタイル」などの切り口もあります。また「赤」だけだと「色」にも「柄」にも含まれ、要素が重複するので注意が必要です。MECEで分解した要素を、さらに細かく分解したものが「ロジックツリー」(図2)です。問題の原因を深掘りして解決策を探るときに有効です。たとえば「店舗の収益性向上」という課題には、その解決策を「売り上げの向上」「コストの削減」に大別。さらに「売り上げの向上」を「顧客数の増加」「客単価の向上」に分類するというように細分化します。

具体的な打ち手がわからないときは、「ギャップ分析」(図3)を使います。「あるべき姿」と「現在の姿」の差異を分析し、目標や目的の達成に必要なものを抽出する手法です。



ロジカルシンキング中級
自分の主張を整理する
言いっ放しで、終わらせないために
「ピラミッドストラクチャー」(図1)はロジックツリーと構造が似たフレームワークです。向きが違うだけという人もいますが、私は「ロジックツリーは要素分解、ピラミッドストラクチャーは自分の主張の根拠づけ」と使い分けています。

ポジショニングを把握したければ、縦軸と横軸で4象限をつくって分類する「マトリクス」が効果的です。たとえば「市場シェア×成長率」で事業を分類したり、「緊急度×重要度」でタスクの優先づけができます。

思い浮かんだことを次々に挙げるブレーンストーミングは、ロジカルシンキングと対極にある会議形式です。ただ、言いっ放しで終わらせないためには、出た意見を整理する必要がある。そこで役立つのが「親和図法」(図3)。似た意見をグループにまとめるシンプルな手法です。

イデア出しに詰まったら「SCAMPER」(図2)。発想するときに有用な7つの切り口を示したものです。

ビジネスには、「スマホに含まれるレアメタルの含有量は」など、調査するのが困難でも、おおよその数値を出さなくてはいけない場合があります。そのときは「フェルミ推定」で、既存の手がかりから推論・概算しましょう。



市場分析
次々と新しい分析手法が提唱されている
話題のAISAS、エスノグラフィーとは
市場分析でよく使われるのが「3C」(図1)です。3Cとは、市場の3つのプレーヤーであるCustomer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)のこと。市場を3者の視点で見ることで、その市場における重要成功要因を導き出します。

市場構造の分析には「5F」(図3)も有効です。業界を「新規参入者の脅威」「代替品の脅威」「売り手の交渉力」「買い手の交渉力」「同業他社との競合」の視点から分析する手法ですが、実務では、5項目すべてを詳細に分析する必要がないこともあります。たとえばタクシー業界を分析する場合、重要なのは「新規参入者の脅威」(ウーバーなどシェアサービスの台頭)。規制で運賃が決まっているため、「買い手の交渉力」は無視していい。フレームワーク全般に言えることですが、枠をすべて埋めることが目的ではないのです。

市場における顧客の動きの分析には、「AISAS」(図2)や「エスノグラフィー」(図4)など、次々と新しいモデルが提唱されています。AISASは、SNS時代に即したフレームワークです。また、エスノグラフィーは、デザイン思考と呼ばれるイノベーションを起こす方法における、ユーザー観察の手法です。



戦略立案
力を入れるべき事業はどれだ
顧客なきところに、チャンスはない
事業戦略の立案に役立つフレームワークを紹介しましょう。「アンゾフの成長マトリクス」(図1)は成長戦略を考えるときに有効です。「顧客ターゲットは新規か既存か」×「技術は新規か既存か」のマトリクスで、自社が力を入れるべき領域を導きます。

成長マトリクスで将来目指すべき領域が見えたら、直線的に突き進む事業戦略を立てたくなるかもしれません。ただ、現実には途中で環境変化があって、理想通り進まないもの。走りながら考える「アジャイル戦略」(図4)で柔軟に進めるのも選択肢の1つです。

「バリュープロポジション戦略」(図2)は、顧客起点の戦略立案です。(1)どの顧客セグメントに、(2)どの経営資源を使い、(3)どのような価値を提供するのかを考えますが、大切なのは順番です。自社の経営資源から発想する企業が少なくありませんが、機会なきところに成長なし。顧客ニーズから考えることを徹底しましょう。

顧客のニーズがあっても、そのための経営資源がなければ絵に描いた餅です。自社の経営資源は「VRIO」(図3)で分析。Value(経済価値)、Rarity(希少性)、Inimitability(模倣困難性)、Organization(組織)の各視点で評価します。



組織・人材育成
モチベーションの高い組織をつくるには
チームごとに、適切な施策は異なる
組織が求める人材はそれぞれですが、最低限、「PDCA」(図1)のスキルは身につけておきたいところです。個人的には、Plan(計画)とDo(実行)の間にImplementation(実装)、つまり計画に合ったリソースをつくれる人がいないと計画倒れになると感じています。

組織マネジメントでは「マズロー欲求段階説」(図2)を意識します。賃金で社員を動機づけするのは下位の段階。承認や自己実現の欲求に応えてモチベーションの高い組織をつくりましょう。

「タックマンモデル」(図4)は、チームビルディングに役立つフレームワークです。チームマネジメントの適切な施策は、チームの段階によって変わります。たとえば形成期にあるのに、個人の自主性に任せた放任主義では、チームが瓦解するおそれがあります。逆に機能期に、コミュニケーションを深めようとミーティングを繰り返すのはミスマッチ。自チームの段階を把握して、適切な施策を打ちましょう。

組織変革は「ADKAR」(図3)で考えます。変革に必要な5つのステップを踏むことで、変革を実現できます。

ぜひ活用してみてください。



日本総合研究所 主席研究員 東 秀樹 構成=村上 敬 撮影=的野弘路 写真=iStock.com]